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東京高等裁判所 昭和54年(く)14号 決定 1979年2月01日

少年 M・G(昭三五・一〇・九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年が差し出した抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、抗告趣意三項において、裁判官が父親の意見を聴く際、退席させられたことの不当を主張しているので、まずこの点について判断するに、少年審判規則三一条二項の趣旨に照らすと、審判中「少年の情操を害するもの」と認める状況が生じたときでなければ、少年を退席させることはできないものと解せられるところ、原決定当日の審判調書によると、同審判の際、裁判官が保護者の自由な発言を求めるため必要があると認め少年に一時退席を命じ、少年の父親の陳述をきいた旨記載されているだけであるが、関係記録を精査すると、本件では、父親に自由な発言を求めることにより、その発言内容が少年の情操を害することに及ぶおそれが十分あつたものと認められ、そのために裁判官が少年を退席させたものと推認できるから、右調書の記載に適切を欠く憾みはあるが、裁判官の右措置に、決定に影響を及ぼす法令の違反があつたとみるのは相当でない。

右のほか、所論にかんがみ、原審の審判手続を十分検討してみても、その手続に特段の法令違反は認められない。

更に、関係記録によつて認められる少年の生活史、非行歴、性格、現在の健康状態、家庭の状況なかんずく両親の保護監督能力並びに本件各非行の動機、原因、態様などの諸事情を総合すると、原決定が「処遇」の欄において詳しく説示しているところは、正鵠を得た判断としてそのまま首肯することができ、この際少年を医療少年院に収容して矯正教育を施し、健全な社会人として社会に復帰させることを期した原処分に著しい不当はないものと認められる。

よつて本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 千葉和郎 裁判官 永井登志彦 中野保昭)

〔参考〕 抗告申立書

抗告の趣旨

一 私は昭和五十四年一月九日静岡家庭裁判所沼津支部で審判の結果医療少年院送致の決定を受けましたがそのことに対して抗告します。

二 審判での裁判官の意見は一方的で、私の意見やこれからのことを聞こうとしなかつたこと。

三 裁判官が前回の保護処分に対して、父親に聞く時にも自分は、その場から離されていて、父親の意見を聞くことができなかつた。父の子供として父の意見を聞くことができると思う。

四 保護処分になつた時の約束を守らなかつたから、少年院に行つてもらうと裁判官が言つたけど、あまりにもむじゆんしていると思う。

五 家庭の中がうまくいつていないからと言つたけど、その事で私が同じ事を繰り返すおそれがあると言つたけど、それは私自身の気持しだいであり、裁判官が言つた事は、裁判官の見かたであり、私の決意がどれだけの考えをもつているかわかつていない。

六 今の世の中に、家庭の中がすべてうまくいつている家庭は少ないと思う、かえつて少しぐらいの事情がある家庭の方がよいと思う。家庭の中がうまくいつているからと言つて、その家の子供が犯罪をおこさないともかぎらない。だから家庭の中がうまくいかないからという裁判官の考えは、いかにも、私の家庭の中を知つているというかと言うと、そうではないと思う。その事は私自身よく知つているのでわかります。だから家庭の中がうまくいつている。いつていないとは裁判官は判断できないと思う、裁判官は、私の家の悪いことだけ指摘して、良いことの面にはふれようとしなかつた。

以上

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